Biography
1979年生まれ 大阪出身 横浜在住
吉川 薫は亡父への想いをイメージの根源とし、愛を武器に戦う子ども達に自身の感情を投影させ、具象と抽象を織り交ぜながら表現している。
「愛」を武器に作者が創り出す「実態を掴むことができない何か」と戦う子供達。それは人間なのか?妖怪なのか?現代に生きる人々が抱かえる問題なのか? 子ども達は「愛」だけで立ち向かっていくことができるのだろうか?作者にとっての「実態を掴むことができない何か」は、父親への自身の感情であり、子ども達は作者の意志を投影している。
ラブレターは答えがでない、中身がわからない愛がもつ抽象性、花は愛の脆弱性を表現している。これは「愛」の形を中世西洋絵画にみられるシンボルと同じ役割として描いている。所々で登場する子ども達が咥える「黒いへび」は、ドイツの哲学者ニーチェの書物「ツゥラトゥストラ」の羊飼いと蛇の話から着想し、自身の心境を表現している。
また、絵の中に描かれている植物やラブレター等を磁器粘土で制作し、それを砕き愛の脆弱性の表現をより一層深めることを試みている。この手法を用いることで平面であり立体でもある、その変容を受容した作品群は美術のコンテクストの影響をすり抜けた奔放な魅力を放っている。
作中の子ども達は愛を武器にして戦い、明るい未来を勝ち取ることができるのか? このテーマで作品を繰り返し制作することで一連の作品世界を構築している。
吉川 薫は自身の作品を通して己の過去を克服し、これからの先の未来を力強く切り拓いていきたいという思いを込めて制作している。
作品制作の手法を述べると、一度キャンバスの上にアクリル絵の具やワックスペーパー、チャコールなどを用いて作品を制作し、作品上に出てくる人物の思惑や植物、ラブレターなどを磁器粘土で形成する。その後、乾燥させ1260℃の窯で焼き上げる。磁器作品を砕きながら絵画作品と組み合わせ接着し、再度作り上げた作品の上から油彩、インク、オイルパステル等を用いて人物等の絵を描きあげ完成とする。
作品の中で使用されている磁器の歴史を紐解くと、17世紀半ば日本と欧州の交流の中で西洋諸国に認められた最初の日本美術は、浮世絵ではなく磁器であった。まもなく日本から送られた陶器の包みの詰め物に使われた『北斎漫画』に、その高い芸術性に版画家フェリックス・ブラックモンが関心を示した。1856年のことであった。その後日本の浮世絵は印象派の一連の画家たちによって高い評価を受け、世界に知られるようになった。これがジャポネスクブームである。
吉川 薫自身が強い関心を示した磁器と漫画表現。磁器作品の影が落とす「線」と、漫画の特徴であるアウトラインが引かれた平面的な「描画」を融合させた場合、どのような効果が生み出されるのか。この一連のジャポネスクブームの発端と同じ経緯を辿る吉川 薫作品は今後どのような展開をみせていくのか作者自身も大きな期待を寄せている。
主な活動歴
2024
●ギャルリー東京ユマニテbis 個展(東京)